モカブラウンの鍵【完結】
しゃぶしゃぶが食べ終わり、珍しいことに姉ちゃんが皿洗いを手伝ってくれている。

佐伯さんも手伝おうとしてくれたけれど、姉ちゃんに無理矢理、風呂場に連れて行かれた。


姉ちゃんとキッチンで並んでいるのって、いつ以来だ。

幸司さんのバレンタインのチョコレートを作るのを手伝わされた時だっけ。

それだけ、姉ちゃんは家事全般に縁遠いってことか。

姉が人妻で、主婦もしているというのが信じられない。


「涼太」

「うん?」

「あんた、女見る目あるじゃない。てか、育ったのか」

「なんだよ、急に」

「だって、ナオちゃん、すごくいい子じゃない。真面目だし、礼儀正しいし。仕事もできるんでしょ」

「ああ、仕事の上でも佐伯さんのことは尊敬しているよ。それに姉ちゃんと違って、家事も得意だし」


姉ちゃんは俺の手の上で、泡だらけのスポンジをギュッと絞った。

おかげですすいだ食器が、また泡にまみれる。

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