モカブラウンの鍵【完結】
「ほら、食べよう。佐伯さんも遠慮せずに食べてください」

「ありがとう。杉山、料理するんだね」

「ああ、嫁に行った姉が不器用で、父親も不器用で。でも、俺が器用だったんで、家事全般は俺の仕事だったんです。生きるためですよ」

「ちょっと、私だって洗濯くらいしたわよ」

「自分の下着だけだろ。それか洗濯機のスイッチを押しただけだろ。アイロンがけや干すのは俺がやってた」

「アイロンぐらいはかけてたじゃない」

「それは彼氏のユニフォームとかだろ」

「うるさいわね。小姑みたい。そんな性格だから彼女ができないのよ」

「ほっとけ」


鍋の中に豚肉を泳がし、ポン酢に漬けて食べる。

しゃぶしゃぶ、美味い。


肉ばかり食べていると「杉山、野菜も食べなよ。バランス悪過ぎ」と言われた。

「ああ、すみません」

「これは杉山が食べてね」


白菜や人参、椎茸を鍋の中に落としながら佐伯さんが言う。

そのやりとりを見ていた姉ちゃんは、俺の顔を見ながらニタニタしていた。


気持ち悪いよ、姉ちゃん。

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