モカブラウンの鍵【完結】
「杉山、顔、怖いぞ」


松下さんが面白そうに、キャスター付きのイスごとこっちに寄ってきた。


「普通の顔ですよ」

「さっき応接室に案内した男、誰だよ」

「中野先輩」とつっけんどんに答えた。

「誰だよ、それ」

「中野工房の中野和史。佐伯さんは中野“先輩”と言ってました」


描きかけの図面をイライラしながら描く。


「へえ、先輩ね。案外、元彼もよ」


人が気にしていることを。


「仮にそうでも、昔の話ですから」

「その割にはイライラしてるな」

「松下さん、仕事してください」

「はいはい。怖い、怖い」と言って、松下さんはイスごと自分の席に戻った。



応接室に入ってから30分。2人が出てくる気配はない。

腕時計を何度も確認している自分が嫌になる。

注意が散漫になっているせいで、小さなミスを繰り返し、直してばかりいる。

仕事が進まない。


いい加減、出てきてくれ。


心の中で叫ぶと、仲良さそうに応接室から出て来る2人がいた。

中野さんをドアまで見送る。

そのあと、社長の所へ行き、報告をしているようだった。



仕事相手にイラつくなよ、俺。

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