モカブラウンの鍵【完結】
 ダイニングテーブルに着いて、雛人形を眺めながら夕飯を食べ、食後に例のスパークリングワインを開けた。

「きれいなピンク。桃の節句にピッタリの色だね」

 ほんのり頬を染めた奈央美がグラスをライトにかざしながら言った。

「そうだな。少し酔ってきた?」

「全然、まだ飲めるから。涼太の方が酔ってるんじゃない?」

 顔を近づけて来た奈央美に、自分もぐっと近寄ってキスをしようとした。奈央美は俺の口に自分のワイングラスを当てる。

「ダメ。雛人形が見てます」

 視線を横へずらすと、弓を持ったじいさんと目が合った。口に当たっているグラスを奈央美から受け取り、全てを飲み干す。そして、奈央美の手を引いて寝室へ向かった。

 俺たちには誰にも見られない場所が何より必要だから。


*★*―――――*★*―――――*★*―――――*★*―――――*★*

2015/03/03のファンメールに載せた『ひな祭りSS』です。

< 298 / 300 >

この作品をシェア

pagetop