モカブラウンの鍵【完結】
 大学生のとき、俺は姉ちゃんの旦那さん(当時は彼氏でもなかった)の幸司さんに頼まれて、一回だけモデルの代役を務めたことがあった。それは姉ちゃんが働くホテルで開催されていたウェディングフェアでのことだった。

 写真の俺は真っ白のタキシードを着ている。あのときは引き受けたことを後悔した。白タキシードは二度と着たくないと思ったくらいだ。奈央美の結婚式の時はシルバーグレーのタキシードを選んだぐらい。

「なんで今更こんな写真を引っ張り出してくるんだよ! 奈央美は見た?」

「うん。涼太、かわいい! それに若い! でも今も素敵よ」

「マジで! じゃなくて。なんでこんなの持ってるんだよ」

 姉ちゃんに詰めよると「そんなに慌てないでよ」と、軽くあしらわれた。

「昨日ね、幸司と部屋の掃除をしてたら出てきたの。これはナオちゃんにも見せてあげなくちゃと思って」

「見せなくていいよ。家に変なもん持ってくるな。この写真は没収」

 姉ちゃんは「ああ」と言って、不機嫌な顔した。

 そして写真は俺が厳重に処分した。でも甘かった。数日後、姉ちゃんから届いたメールに例の写真画像が添付されていた。デジタルで残すなよ、と思いながら携帯を持って震えた。


*★*―――――*★*―――――*★*―――――*★*―――――*★*

宏実が主人公の小説『メシトモ!』に絡めた短編です。

涼太がモデルをした経緯も書かれています。

興味のある方は読んでいただけたら幸いです。

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