モカブラウンの鍵【完結】
「どうだ」

扉の方に目を向けると、社長が様子を見に来ていた。

「その顔だと、まだデザインは決まってないんだな」

「はい。ディスプレイを高くすると、圧迫感を与えてしまったり、死角が増え、防犯上の問題が出てきて。そこをクリアするデザインが浮かばなくて」

佐伯さんは何枚かのデザイン画を見せながら、社長に説明をした。

「なるほどな。これとかはデザインは良いが、確かにジュエリーショップにしては圧迫感が強い。色を少し明るめなのに変えてみたらどうだ?」

俺は「それもしてみたんですが、何かしっくりしないんですよ」と片付けた図面を片手に、社長に向かって言った。

「そうか」

「あの、社長」

「何だ?」

「社長が友里(ゆり)さんへの婚約指輪を買った時、ジュエリーショップに入るとき、気合を入れましたか?」

社長は愛妻家で奥さんの友里さんは『ARAI DESIGN』の経理を担当している。

社員全員が目標にするような仲睦まじい夫婦。


「そりゃそうだ。気合を入れて店の前に行くんだけど、素通りしてしまったよ。結局、次の日に出直した」

佐伯さんはその話を聞きながら、クスクス笑っていた。

< 45 / 300 >

この作品をシェア

pagetop