モカブラウンの鍵【完結】
よかった。

この数週間で、佐伯さんが目を伏せて辛そうにしている顔やドラマや映画のように一筋の涙を流す顔を見た。

そんな表情を見る度、そっとしておこうと思う反面、俺に話してくれないかなとも思う。

そして、佐伯さんの笑っている姿を見ると安心する。


「杉山も最近、何店舗かジュエリーショップ行ったでしょ? 杉山も素通りした?」

眺めていた人が急に話し出して、内蔵がグッと締まる。

「しました。しかも僕は客ではないので、ますます入りにくかったです」

「そうだよな。涼太の方が店に入るのに、よっぽど気合が要ったよな」

社長は「ちょっとした罰ゲームだな」と笑いながら、そのまま会議室を出て行った。


「男の人も大変ね」

ファイルや書類を抱えた佐伯さんが感慨深いそうに言う。

「そうです。女性から見れば、男なんて楽な生き物に見られがちですけど、男には男の大変さがあるんですよ」

佐伯さんは「ふーん」と言って、会議室を出て行った。

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