モカブラウンの鍵【完結】
佐伯さんの寝顔を眺めているとさっきの言葉が蘇る。


「私、幸せになれる?」


あの言葉は、本心なんだろう。

酔っ払っていたせいで理性が弱くなり、思わず口から出たんだ。


人は誰だって幸せになりたい。

当たり前のこと。

でも、それを誰かに聞いて、肯定してもらいたいと思うのは、本当に苦しいのだろう。

嘘でも何でもいいから肯定してもらいたい。


「何にが、佐伯さんを苦しめているんですか?」

答えるはずもない寝顔に話し続ける。


「俺、最近、おかしいんですよ。佐伯さんが笑っていると嬉しいんです。でも、泣き顔や苦しそうな顔を見ると、俺もつらいんです」


目にかかる髪を耳にかける。小さな耳にはピアスホールが見えた。


「一応、25年も生きているんで、どうしてこんな気持ちになっているのか、わかるんですよ。仕事が忙しくて、楽しくて、あまり考えてなかったけど。今日、自覚しました」

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