モカブラウンの鍵【完結】
「ねえ、この家のデザインいいわね」


画面には主人公の男が住む、小さな箱のような家が映っていた。

外観はドアと窓しかなくて、そっけない。

中は壁、一面が棚になっている。

そこには本や写真、置物、帽子や靴が並んでいた。

いわゆる、見せる収納。


「はい、いいです。住む人の全てがインテリアになる家。家って、その人の生き様ですよね」

「うん。本当、生き様だよね。最近、兄が婚約したって言ったでしょ。兄は骨董品店をやっていて、お店は博物館みたいに豪華なの。でも自宅は殺風景で、睡眠のための部屋って感じなの。ベッドとタンスと机くらいしかなくて。

でも、晴香(はるか)ちゃん、あ、兄の婚約者の名前ね。晴香ちゃんが一緒に住むようになってから、部屋が明るくなったの。淡いグリーンのテーブルクロス、ミルクティー色のソファ、窓辺に置かれた小ぶりの観葉植物。

結婚するって、お互いの人生が、過去も現在も未来も全部、混ざる事なんだなって、部屋を見て思ったんだ。そういう建物を作る仕事に携われている私たちって、幸せよね」


「そうですね。幸せです」


昨日の夜、佐伯さんが言った言葉を思い出す。



『私、幸せになれる?』



なれますよ。

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