モカブラウンの鍵【完結】
――ガチャガチャ


玄関の方から、鍵の開く音がした。


「ただいま!」


そんなに大きな声で言うなよ。


「涼太! 夕飯は?」


リビングに入ってくるなり言った言葉。あり得ない。


「姉ちゃん、ただいまの次は飯かよ」

「いいじゃん。ああ、失礼しました。いつも弟がお世話になっております。姉の宏実(ひろみ)です」


ソファに座る佐伯さんに深々と頭を下げる姉ちゃん。

仕事用の顔だ。

仕事と家の中の差、あり過ぎ。


「いえ、私も弟さんにはいろいろと助けてもらっています。佐伯奈央美です。先日は、ホテルの方でいろいろとお世話になりました。ご挨拶もせず、失礼しました」

「気にしないでください。あの、堅苦し挨拶はこのくらいにしませんか。敬語とか気にしなくていいんで。私のことはお姉さんでも宏実でも、好きに呼んで。私はナオちゃんって呼んでいいかな?」

「はい」

「そう、よかった。私は着替えてこよう」


姉ちゃんはそう言いて、自分の部屋に引っ込んだ。

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