臆病な恋心~オフィスで甘く守られて~
「おい、佐久間。離せよ」


航平が現れ、楠本が掴んでいないほうの肩を掴む。男二人に掴まれた佐久間は観念したように麻由子を離した。


「麻由子。帰ろう」


麻由子は航平の姿を見て、泣きそうになる。会いたくなかったのに、会えたことが嬉しくなったのだ。だけど、今の自分ではわがままを言ってしまいそうだったから、一緒にいたくなくて首を横に振る。

「帰らない」と無言で訴える。


「麻由子、おいで。一緒に帰ろう」


泣きそうな顔で首を横に振る麻由子は、そこにいる誰もが見ても切なかった。航平は不安になっている麻由子も思いっきり抱きしめたいと思っていた。

だから、嫌だと言われても力ずくでも連れて帰ろうとする。


「麻由子。行くよ」


手を握って立ち上がらせようとする。


麻由子はまた首を振る。意外と頑固なのかもしれない。

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