恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
『食べれないって言っても誰も嫌ったりしないよ。少なくとも私は嫌いにはならないよ』
あの言葉がどれだけ自分を救ってくれたか、きっと花澄は知らないだろう。
その瞬間、雪也の心は花澄に囚われた。
……そして。
目に映る世界の色ががらりと変わった。
これまで灰色に見えていた世界が鮮やかな色で包まれた。
雪也はそれまで、月杜の家に生まれたことを心の奥底で厭わしく思っていた。
けれど自分の婚約者が花澄であると知ったとき、雪也は月杜の家に生まれたことを初めて嬉しいと思った。
どの男よりも彼女に近い位置に居れることに心の底から喜びを感じた。
そして花澄と過ごす時間が増えていくにつれ、花澄の性格や心の内もだんだんと分かってきた。
花澄も自分と同じく心に傷を抱えている。
花澄の場合は『選べない』というトラウマだ。
花澄自身、心の傷を抱えているからこそ、雪也の心の傷を無意識のうちに察してくれたのかもしれない。