恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
花澄は驚き、目を見開いた。
御曹司の雪也でもバイトすることがあるのだろうか。
と思ったのが顔に出たのか、雪也はハハと笑った。
「バイトっていっても、親父の会社の仕事をちょっと手伝っただけだよ。去年の夏休みにね」
「へー……。どういう仕事だったの?」
「親父の会社の中に、品質管理の部署があるんだけど。そこで、アラミド繊維と炭素繊維の強度実験のデータを、ひたすらパソコンに打ち込んでまとめて……」
「……?」
「つまり、事務的力仕事。……あれはかなり肩凝ったよ。俺はつくづく、ああいうのは向いてないって思うね」
雪也はぼやくように言い、時計を見た。
「こいつは振動で巻かれるから、身に着けてないと止まってしまうんだ。土日とか、ずっと外してると月曜の朝には止まってる。そのときは慌ててゼンマイを巻くんだ」
「へぇ……。なんだか生きてるみたいだね?」
「そうだね。手が掛かるけど、その分愛着がわく。『私を動かすのはあなただけ』ってこいつに言われてる気がするんだ」