恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



花澄は驚き、目を見開いた。

御曹司の雪也でもバイトすることがあるのだろうか。

と思ったのが顔に出たのか、雪也はハハと笑った。


「バイトっていっても、親父の会社の仕事をちょっと手伝っただけだよ。去年の夏休みにね」

「へー……。どういう仕事だったの?」

「親父の会社の中に、品質管理の部署があるんだけど。そこで、アラミド繊維と炭素繊維の強度実験のデータを、ひたすらパソコンに打ち込んでまとめて……」

「……?」

「つまり、事務的力仕事。……あれはかなり肩凝ったよ。俺はつくづく、ああいうのは向いてないって思うね」


雪也はぼやくように言い、時計を見た。


「こいつは振動で巻かれるから、身に着けてないと止まってしまうんだ。土日とか、ずっと外してると月曜の朝には止まってる。そのときは慌ててゼンマイを巻くんだ」

「へぇ……。なんだか生きてるみたいだね?」

「そうだね。手が掛かるけど、その分愛着がわく。『私を動かすのはあなただけ』ってこいつに言われてる気がするんだ」


< 185 / 476 >

この作品をシェア

pagetop