恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



雪也は言い、目を細めて時計を見た。

きっとこの時計も雪也にとって『大事なもの』の一つなのだろう。

花澄はドキドキしながら、雪也の横顔を見た。


雪也の好きなもの、嫌いなもの、……そして、大事なもの……。

一つ一つでいいから、知っていきたい。

……やはり、自分は雪也を好きになっているのだろう。

憧れだけで抑えようと思っても、雪也のことをもっと知りたいと思ってしまう。

隣にいるだけで淡く温かい気持ちが溢れてくる。

好きになってはダメだと思えば思うほど、惹かれていく……。


ずっと、ここにこうして二人で居れたらいいのに……。


雨音はしだいに弱まっていく。

二人を隠していた白い霧が、ゆっくりと晴れていく。

花澄は雪也のコロンの甘い香りに包まれながら、雨霧にけぶる森をじっと見つめていた。


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