恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



清美の言葉に、花澄は『はい』と頷いた。

『月杜の旦那』はフルネームを月杜真治といい、日本でも一、二を争う繊維メーカー『東洋合繊』の会長をしている。

彼と清美は昔から同郷ということで親交があり、恋仲だったらしいのだが、家柄と時代の波に阻まれ、二人の恋は成就せず……。

『自分たちの代わりに、子供もしくは孫を結婚させたい』と、子供達にとってははた迷惑な約束が、数十年前に子供達の知らないところで交わされた。

……そして花澄が10歳になった時。

花澄と従姉の美鈴は、とあるパーティで月杜家の孫二人と引き合わされた。

『月杜家の孫二人』というのは月杜真治の直系の孫二人のことで、兄の賢吾は大学に在学中で、弟の雪也は花澄と同じ高校に通っている。


「土曜の午後に来ると言っていたから、……環、準備をしておくように」

「はい、畏まりました」


花澄の前に朝食のプレートを置き、環は恭しく一礼した。

プレートの上には焼きたての全粒粉のパンとポーチドエッグ、タラの芽の和え物とグリーンサラダが載っている。

グリーンサラダに使われているリーフレタスや水菜は環が庭で栽培しているもので、タラの芽は裏の雑木林に生えているものだ。


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