恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



翌日。

花澄は『クラスの用事があるから』という名目で、いつもより早めに家を出た。

……まだ、結論は出ていない。

期限は今日なのに、環にどう返事すればいいのかわからない……。


環を選べば、家族を悲しませることになる。

環を選ばなければ、環を傷つけることになる。


――――どちらかを選ぶなど、花澄にはできない。


自分の『選べない』性格を否応なしに自覚させられる。

自分の心の弱さが、情けない……。


通学途中、花澄は赤信号で自転車を止めたところで、鞄から手鏡を出して自分の顔を見た。

――――寝不足でひどい顔だ。

けれど花澄以上に、きっと環は悩んでいるだろう。

それを表にはカケラも出さず、いつも通りに執事の仕事や勉学をこなしている環は、やはり心が強いのだと思う。

……自分にはない、心の強さ。

以前はそれを『すごい』と思っていただけなのに、今は……。


「……環……」


自分でもわからない、甘酸っぱいような、苦いような感情が胸に湧き上がる。

花澄は手鏡をしまい、再び自転車をこぎ出した。


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