恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



「…………」


現実は何も変わっていない。

どんなに環が好きでも、どんなに恋に身を焦がそうと……

自分が雪也と婚約しているという事実は、なかったことにはならないのだ。


環と関係を持ってしまった今、このことを雪也に黙っているのも卑怯な気がする。

雪也は昔から自分の心を誰よりも察してくれた。

自分が雪也に惹かれたのは、そういった理由もあるのかもしれない。

……それでも、言わないのは卑怯だ。

そう思いながらも、言ってしまったらどうなるのかを考えると恐れが胸にこみ上げる。


花澄はコーヒーを一口飲み、ため息をついた。

あれから、環の態度も変わった。

『お前は誰にも渡さない』と独占欲を露わにするようになった。

あの夜以来体は重ねていないが、事あるごとにその気持ちを花澄にぶつけてくるようになった。

環の気持ちは、嬉しい。

環を思うと焼け爛れるような熱い想いが胸に広がる。

しかしそれと同時に、黒い罪悪感がひしひしと胸にこみ上げる。


――――いくらお互いに想い合っていても、現実は変わらない。


< 426 / 476 >

この作品をシェア

pagetop