恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



工房の中には10人ほどの作業員がおり、皆忙しげに働いている。

ほとんどが近くの町や村に住んでいる主婦達で、大半がパートだ。

花澄は工房の中を見回しながら藍甕の前に立った。


藍は「すくも」と呼ばれる、蓼藍の葉を砕いて半年間発酵した、いわゆる「染料のもと」を甕に入れ、そこに媒染液である灰汁などを入れてしばらく寝かせる。

寝かせている間、藍液は30℃程度でずっと保温しておかねばならず、それによって藍の色合いが微妙に変わってくる。

そして季節によっても違うが、だいたい二週間弱で藍の色が出、染めることができるようになる。

藍染めの成否はこの甕の管理にかかっていると言っても過言ではない。

ちなみに「すくも」は今は徳島の特定の産地でしか作っておらず、この工房で使う「すくも」も徳島から取り寄せている。

もともと花澄の家は徳島で代々『藍師』をしてきた家系で、長年のノウハウを生かせるということもあり、繁次はこの伝統的な手法で藍染めを復活させようと考えたらしい。


「さて、若い人手が増えたところで早速始めるか。環、そこの灰汁を取ってもらっていいか?」

「はい、旦那様」


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