恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
7年前、雪也は花澄を引き留めるべく工房への資金援助と引き換えに強引に花澄と婚約を交わした。
再会した花澄はそれについて雪也を責めることはなかった。
しかし母はずっと、雪也が花澄に対してしたことを忘れなかった。
……自分の息子が一人の女の子を金の力で自分のものにしようとした。
それは母として耐えられないものだったのだろう。
真っ直ぐに育てたと思っていたからこそ、息子がそんなことをしたと知った時の母の衝撃は計り知れないものだったに違いない。
どんなに時間をかけて信用を培っても、たった一度の行為で信用は一瞬にして崩れ去ってしまう。
小百合が自分の全てを信用していないという訳ではない。
しかしこと花澄に関しては、小百合の自分に対する信頼は7年前に既に失われていたのだ。
強い衝撃が胸を駆け巡る。
7年前に自分がしたことの結果を目の当たりにし、雪也は青ざめた。
「……雪也。もう諦めなさい。花澄ちゃんは新しい人生を歩み始めたの。そしてあなたにはあなたに相応しい人がいる」
「………………」
「長すぎる春は叶わないものよ。……いい加減、目を覚ましなさい。あなたには東洋合繊の将来を導いていく責任があるのよ?」