恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



花澄は根付をポケットに戻し、はぁと息をついた。

そのとき。


ドンドンドンと、狂ったようにドアが叩かれた。

同時に何度も呼び鈴が鳴る。


「……っ!?」


花澄ははっと顔を上げ、立ち上がった。

……誰だろう。

けれどここに入って来れるのは、このマンションの鍵を持っている人だけだ。

ひょっとして賢吾が何か忘れ物でもして急いで戻ってきたのかもしれない。


花澄は慌てて玄関に駆け寄り、ガチャっとドアを開けた。

……その、瞬間。


「────っ!」


雨に濡れた黒褐色の艶やかな髪に、月の光を映したかのような瞳。

リーバイスに白のボタンシャツ、紺のアーガイルカーデというカジュアルな普段着だが、その身に漂う気品は7年前と全く変わっていない。

爽やかで大人っぽいコロンの香りに、雨の香りが少し混ざっている。



「……雪くん……」

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