恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



宮澤は心底驚いたように言う。

花澄は苦笑し、場内案内のパンフを取り出した。

手早く広げて、次に行く予定の『旭日化成』の場所を確認する。


「さ、次は旭日化成ですね。あっちの隅の方みたいですが……」


と、足を踏み出した花澄だったが。

人混みの中、花澄の目の前をすっと横切った男性の姿に、花澄は思わず足を止めた。


真っ直ぐで艶やかな黒髪に、榛色の瞳。

銀縁の眼鏡を掛け上品な紺ストライプのスーツを身に着けているが、その横顔を見間違うはずがない。


記憶の中に残る、あの愁いを帯びた瞳。

あの甘い夜闇の中、じっと自分を見つめた、あの瞳……。



「────環?」


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