アラビアンドリーム~砂漠に咲いた一輪の薔薇~
 由奈は、広大なサハラ砂漠を走るツーリストバスの車窓から、美しく広大に広がる砂漠の風紋をぼんやりと見ていた。目は風景を見ているが心はここにあらず、自分の身に起こった様々な事を、走馬灯のように1つ1つ思い起こしていた。

 音大で声楽の勉強をして、学校外ではダンスの練習に明け暮れてミュージカル俳優を目指し、数カ月前までは希望と夢にあふれていた。

 1年前の大学2年の春、体が怠い……ちょっとした怪我で出血するとなかなか血が止まらなくておかしいと思い、病院に行ったら、原因不明の血液の難病だと言う事が分かった。
 物凄くショックだったが、いい薬もあるしきっと完治できると信じ、夢を諦めずに頑張り続けてきた。

 1ヵ月前に、血液検査の数値が悪くなってる事、新しく変えた薬が効かなくなったら、もう使える薬が無い事を宣告された。

 ――まるで死の宣告を受けたようだった……。

 丁度ずっとお世話になった主治医の先生が、アメリカの大学に先進医療を学びに行かれるとの事で病院を去る事になり、凄くショックで不安定な気持ちでいた。
 大きな病を抱えている患者にとって、信頼出来る主治医の先生は神様的な心の拠所のような大きな存在だ。その先生が病院から去られると知って、凄く見捨てられてしまったような淋しい気持ちでいた所に、新しい主治医の先生と悪い検査結果の数値。まるでダブルパンチのような気持ちだった。
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