月のあかり
第4章 不敵な挑戦者
      8
 
 
 凍てつくような寒い冬が続く。
 
 三寒四温という言葉があるように、寒い日の後は暖かい日が続くという。
 しかし今年は地球の温暖化や、逆に氷河期の到来ではないだろうかと、気象学者や専門家からも諸説が入り乱れくらい懸念が叫ばれ、世界各地で異常気象が続いていた。
 
 それでも人々は日々の営みの慣習を崩さぬよう、あたかも平然とした表情で毎日を送り、自分自身の今日や明日の事だけを考え、惰性と計画性を巧みに摩り替えて生きている。
 
 異常気象だけでなく、例え巨大地震が来ても、富士山が噴火して火山灰が降り注いだとしても、彼らはある種の帰属本能のようにここへ出勤し、ここで昼食を取ろうとするのだろうか?
 
 ぼくはそんな事を考えながら、高層ビルの下でせかせかと足早に通り過ぎるサラリーマンたちの姿を、営業車の運転席から虚ろな感覚で眺めていた。
 
 
「お待たせっ」
 
 反対車線の歩道から満央が手を振った。
 ぼくは車中から窓ガラス越しに手を上げて応えた。
 
 あれから満央のバイトしているファーストフードの店の近くで、ぼくの営業の仕事がある時は、こうして高層ビルの下で待ち合わせをして、彼女を家に送るまでのドライブデートを重ねていた。
 
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