TABOO 短編集

工事用バリケードの向こうで、敦が手を振っていた。
駆け寄ると、手を伸ばして私が乗り越えるのを手伝ってくれる。

「用事って、何だったんだ?」

フェンスで覆われた学び舎を振り仰ぎ、敦が呟く。

「ちょっと、心残りがあって」

「へえ、済んだのか?」

「うん……消えちゃった」

「つか、この学校ってもしかしてさ」
 
隣町出身の彼は、校門脇に書かれた母校名を見て首を捻る。

「昔、卒業式の日に、事故があったトコ? 三階でふざけてた奴らが窓ガラスにぶつかって、割れたガラスが降り注いで、運悪く下にいた卒業生が死んだって」

「……どうだったかな」
 


憂いを抱えてそびえる灰色の校舎は、明日、取り壊されることになっている。



END
< 16 / 31 >

この作品をシェア

pagetop