TABOO 短編集
「あ、これですか?」
巨大なドミノ倒しのような書棚の一角から古びた本を取り出すと、彼は嬉しそうに頷いた。
「あぁ、これこれ! 助かったよ。いつもありがとう」
「いえ。また何かあれば言ってください」
私が笑うと、彼は悪戯っぽく微笑む。
「暇だから?」
「ひ、暇じゃありません!」
むっとする私を見て心底楽しそうに笑い、彼は貸出カウンターへ歩いていった。
常連の有賀さんは新鋭デザイナーだそうで、画集やら古典文学やら医学書やら、あらゆる本を探しにやってくる。
「茜ちゃん」
呼ばれて振り向くと、顔見知りの小さな女の子が私を見上げていた。
「これ、すごく面白かった」
顔いっぱいを綻ばせて、絵本を差し出す。
「ありがとう茜ちゃん。またいい本教えてね」
図書館大好き、と笑う彼女につられて、私も笑った。