アウトサイダー

たった数時間で決めたことだった。
だけど、もう他に選択肢なんてなかった。

彼は「堕ろせ」とは絶対に言わないだろう。
私も授かった小さな命を殺してしまうなんてこと、できない。

だけと、それじゃあ、彼が……。


幸い、手元にはキャッシュカードやクレジットカードがある。
しばらくはコツコツためた貯金でなんとかなる。


新しくしたばかりの携帯電話の電源を入れて、最後に事務所の番号にかける。

もう真夜中で留守番電話になっていたそれに、私は大きく息を吸い込んで口を開いた。


「池森です。本日付で辞めさせてください。
本当に申し訳ありません。お世話に、なりました」


もうそれ以上はなにも言えなかった。

大好きだった仕事。そして、あの事務所。
いつも私のために力を貸してくれた永沢さん。


私はそれを……すべて捨てる。



< 520 / 576 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop