コンタクト
小さい頃に父親を亡くして10年の年月が経った。
女手一つで、母さんは僕を育ててくれた。
仕事に燃えているとか...
出世したいからとか...
そんな理由ではなく、家庭を守りたい気持ちで突き進んでいる。
僕はその愛を受けながら17歳まで成長した。

父さんが亡くなる前に、大金(遺産)を残したとか、家を建てたとか、そんな夢物語はない。
昔、母さんに「お父さんの遺産ってどんなの?」と聞いたことがあった。
「それはね...あなたよ」
今思えば、当時の僕は、その答えを聞きたいがために尋ねたに違いない。
遺産は僕...そんなことはわかっていた。

築30年のマンション、部屋は4つしかなく、リビングが一つと母さんの部屋と僕の部屋、物置部屋、生活類としてキッチン、風呂、トイレがついている。
月6万円。
駅から若干遠いのが玉に傷だけど、これでなんとか生活している。

ベッドの布団を整えた後、リビングへ向かった。
顔を洗う前に、朝食をとらなければ倒れてしまいそうだった。
テーブルにはサンドイッチが3個置かれている。
テレビの電源を付けて、サンドイッチに包まれたサランラップを剥がし、
一口目を食べようとしたとき...

『速報です。昨晩、五十嵐製造の工場が全焼しました。
火は今朝おさまり、関係者から詳しい事情を聞く予定です。
なお、現在わかっている段階で、けが人は45名、死亡者は3人...今後も増える見込みです。続きまして...』
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