Last flower【執筆中】
その頃、チャルは建物の裏側、ドロドロ川のほとりで

茶色い小さな旅行バッグの上に座っていた。

それはこの施設にぶち込まれた時に持って来たバッグだった。

今朝は、いつもより丁寧にメイクをした。丁寧に髪を梳いた。

あの人が好きだと言っていたローズ色の口紅。爪の色も同じ色に揃え、ワンピも同じ色のものにした。

チャルは、よくわかっていた。

この施設から出るためには保護者や身元引取り人がいない限り、死ぬまでムリだということを。

よく考えれば間抜けな話だが、ここの塀はとても高くて有刺鉄線が張り巡らされてるのにも関わらず

入り口のドアは子供でも十分軽く抜け出せるくらいに低い。閂があるだけで、鍵もついてない。

何人か、そこから町へ抜け出していった子供もいた。しかし全員すぐに連れ戻された。

警察も役所もあてにはならないどころか、自分達のデータは

「あの施設に入れられた子供」として、すべて把握されているらしい。

抜け出した子供の顔写真は、その日のうちにいっせいに町中に貼られてしまう。

ここにいる子供達はー自分も含めてー「いらなくなった子供」なのに、

そんな時ばかり『保護』と称して大人に捕まってしまうのだ。

「…バッカみたい」

チャルは呟き、煙草に火をつけた。もう何本目かわからない。…あの人は、本当に来てくれるのだろうか?

指にはめた、繊細な輪っかについている小さなダイヤがピカリ!と輝いた。
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