恋の訪れ
そのまま昴先輩は冷蔵庫に向かい、再び手にペットボトルを握ったままリビングを出る。
「ご、ごめんね。莉音ちゃん…」
美咲さんは戸惑った様子であたしに視線を送る。
「いえ、慣れてるんで」
「え、慣れてるって?」
「あ、いや、何でもないです」
ほんとに、ほんとに慣れてるんで大丈夫です。ってハッキリ言ってやりたかったけど、美咲さん達の前でなんか言えるはずもなく、心ん中でため息を吐く。
って言うか、美咲さん達、育て方間違ってんじゃないの?って言いたい。
どうしてあんな先輩になっちゃうんだろうって。
って言うか、いつから先輩はそんな偉そうになったわけ?
「どうしようもない奴でごめんね、莉音ちゃん…」
翔さんは申し訳なさそうにそう言いながら席を立ちあがり、
「あ、いえ…」
「またおいで」
テーブルの資料をかき集めながら翔さんは口角を上げた。
そんな翔さんに、苦笑いをしたものの何も言えなかった。
もう、来ないです!なんて…
「…美咲?ちょっと一旦、会社に行くから」
「え、あ、あぁ…うん。ご飯は?」
「帰ってきて食べる。そんなに遅くならないから」
「分かった」
ガチャと翔さんが扉を開けた瞬間に見えた昴先輩は私服に着替えてて、
「昴、ご飯は?」
美咲さんの声に、「いらねーよ」と素っ気ない声が飛んでくる。
あぁ…美咲さん可哀そう…
「食べない代わりに莉音ちゃん送ってやれよ」
そう翔さんが言った後、昴先輩の途轍もないくらいの大きなため息に、あたしまでも憂鬱な気分になった。