恋の訪れ
覗き込むようにサクヤ先輩があたしに手を振っていたから。
ヤバイ、やめてよ、こんな所で。
ヒロ君に先輩達と仲がいいなんて知られたくない。
「あ、ヒロくんごめん。あたし急ぐね」
「え、あ、あぁ…またな」
「うん」
軽く手を振って小走りに走る。
サクヤ先輩の笑み…こわっ!
しかもその横には昴先輩の姿もあった。
何がなんでもヒロ君には知られないようにしないといけない。
あんなガラが悪い先輩達と共にしてる所を見られたら終わりだ。
って、思ったのも束の間だった。
上靴に履き替えて、階段を上っている真理子がサクヤ先輩と話してたから。
その光景を見た所為か、階段を上ろうとする足がガクン…と滑り、あたしの身体が後ろで支えられた。
「あ、すみません…」
「このドジ」
振り返った先に見えるのは昴先輩。
「ギャっ!」
思わず悲鳴を上げてしまったあたしに昴先輩の眉が寄った。
そのまま昴先輩は何も言わずに階段を上って行く。
フーッと息を吐いた時、
「莉音、大丈夫かよ」
なんて聞きなれた声に冷や汗が流れた。