綿菓子と唐辛子


「…っ」


一瞬、声が出なかった。
だからきっと‘電話主’も、戸惑ったに違いない。


『…あの、もしもし?』



その声を、ずっと聞いていたいと思った。




「もしもし、伊藤です」




…そう答えた俺は、一体どんな顔をしていたかな。



『…………ナツ?』


「ヒメ………」



名前を呼んでくれた。
ちゃんと優しい声だった。

ちゃんと無事だった。
ちゃんと実家にいた。


…それだけで、嬉しかった。



『…あ…、ごめんね、わたし、突然いなくなっちゃって…あの…』

「いーよ、ヒメが無事ならいいんだ、無事なら…」



くそ、嬉しくて涙出てきた。

ほんと最後まで、情けねー。



『ごめん、なんだか充電器も壊れちゃって、携帯使えなくなって…。新しいの買いにも行けてなくて…あの…』


とにかくごめん!!と、受話器の向こうのヒメは言っていた。


…思わず、笑ってしまう。

なんだ、よかった、ほんとうに。
俺には、いつも通りのヒメでいてくれた。



それだけで、いいや。







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