綿菓子と唐辛子
低い、声。
でも、父親のような、年月を重ねたような、そんな重みはなかった。
軽やかな、風が吹くような、そんな、若い声だ。
どこかで聞いたような、耳がその音を覚えているような気さえした。
…その、突然通せんぼしてきた声に、俺の体は少しだけ強張った。
心臓も、ドクンと大きく跳ね上がった。
『相坂さんの、彼氏さんですか』
「…………」
受話器の向こうで、俺を「カレシサン」と呼ぶ声。
…その声は、まぼろしでもなんでもなかった。
確かに、俺の耳と脳みそが覚えていた。
どこかで聞いたことのある声だと。
「…もしかして、あの、プールの…?」
思い出したくは、なかったけど。
『はい。あの時はどうも、色々と失礼いたしました』
でも、確かに、覚えていた。
また、心臓が跳ねた。
どういうことだと、ざわざわと、動き出す。