アドラーキャット




忽然と、荻野目くんが立ち止まった。

「……みずき。」

「ん、なに?」

一拍、空白があって。


「すき。」

「へぇ。……………へぇ!??」


勢いよく荻野目くんを振り返ると、彼はいつもと変わらない様子だった。

意味が、よく、分からない。

「えーと、それは、ラブ?ライク?」

「……どっちも。」

「どっちも!?」

驚いた私を不思議そうに見つめる荻野目くん。

「え、だって、すきって、ラブとかライクとかの意味じゃないの?」

首を傾げるその姿は男といえど可愛い。
女の私より可愛いとかどういうことだ。
長い前髪の間からキョロキョロとした猫目がこちらを見つめてくる。

「んーと、言い方が悪かったね。それは、付き合いたいとか、キスしたいとかの好き?」

「うん。」


「よし落ちつこうか‼」

「みずきがね。」

「うん大丈夫私は全然落ち着いてるよ‼」

そう言っても荻野目くんは私を白い目で見てくる。

それにしても今ここが夕暮れの人が少ない道路で良かった。
だって電柱に抱きついて落ち着きを取り戻そうとしても誰にも白い目で見られないもん。
いや、荻野目くんは例外で。


「えっと、荻野目くんは、私にとっていい後輩です。」

「うん。」

「可愛いし好きだけど、でも、付き合いたいとかは、考えられないです。」

「……うん。」

「でも、これからも仲良くしてね。」


そう言いながら、「嘘だよ。」と荻野目くんが言うことを少し期待していた。
彼がそんなことをする性格じゃないのは分かってはいたが、ちょっと信じられなかった。

無言のまま歩き続けて、私の下宿の前に来た。


「じゃあ、また明日ね。」

「うん、ばいばいみずき。」

荻野目くんの顔は見れなかった。



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