和風シンデレラ 〜煙管を掲げて〜


『母親…あのババアはただ金さえ手にはいれば、子供さえも手放すような奴だったんだって、今更気づきました。』


「滝檎太夫…」


『冷羅、で構わんです。』

あたしはまた煙管を手に取り
灰を皿に落とし、吸った。




13歳ごろになると
ライバル意識が強くなり
同い年の子との争いが多くなった。

時には殴り合いになったことだってある。

今まで女将に何回怒鳴られ、叩かれたことか。
女将はまるで……母親のようだった。


『あたしと同じ歳で、菊里(きくり)という子がいました。彼女はあたしの一生のライバルのはずでした。』


菊里は美人で、まわりの女郎から人気があった。

性格も良く、人には優しく、自分には厳しく…そんなような人だった。


そんな菊里に嫉妬をして
時には嫌がらせもした。

でも菊里は強かった。


犯人があたしだってわかっても
女将には言わず、他の女郎にも言わず
ただ我慢していた。


舞も三味線も唄も勉強もピアノも
着付けも飾りのセンスも。



あたしは菊里に1㎜負けているような状況だった。

なにもかも、追いつきそうで追いつかない。掴もうとしても掴めない。
あたしには無い何かが、彼女にはあった。

彼女はそんな嫉妬に狂ったあたしにも優しく
いつも笑ってくれていた。


だけど あたしらが15歳になり
新造のもっと下っ端として働いていたころ。




――――菊里は死んだ。




透明なガラスが一気に砕け散るように

菊里は最後まで美しかった。


菊里は殺された。
というより、事故に近かった。



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