和風シンデレラ 〜煙管を掲げて〜
襖を半分開けた状態で、彼が振り返った。
まだ名前すら聞いていないのに、
帰るなんて……ズルい。
『…こんな魅力的な花魁を置いて、もう帰るっての…?』
あたしはそっぽを向いて煙管を吸った。
「…………」
家来は、あたしをしばらく見つめたあと
照れくさそうににっこりと微笑んで襖を閉めた。
「はは… 実は、もっと長居したかったのですが、こんなわたしがあなたのような立派な花魁を占めるのはなんとも出来づらく…」
『何を言ってるのですか。今あなた様はわたしの旦那様。旦那様があたしを占めるのですよ。』
「逆に占められる気がするんですが」
頭をかきながら冗談ぽく笑う彼。
あたしもクスリと笑う。
「そういえば、まだ名前を言っていませんでしたね。
わたしの名前は、片桐総作(かたぎり そうさく)と申します。
王からは、ディドと呼ばれています。
総作とお呼びください。」
『総作様……ディド様……。
なぜお名前を2つお持ちで?』
「ディドは幼名です。王にはわたしが幼いころから世話になっているので、王は昔からの名前で呼びたいみたいなんです。
まぁわたしは "総作"と呼ばれるほうが良いのですが」
あたしは綺麗な畳の上にどんと置いてあるガラスのテーブルに頬づえをつきながら、へぇ、と相づちを打った。
『では…総作様…。』
あたしはお酒を注ごうと、入れ物をそっと取った。