空と月の下
だから着信があるわけがない。



自分で自分を笑いたくなる。
今までの状況に甘えまくった結果だ。



今更他の人に、甲斐の連絡先を聞くことなんてできない。


そして、知ったとしても連絡をすることもできない。



それだけ距離が空いてしまった気がした。




「はぁ、もう帰ろう」




来てからそんなに時間は経っていないはずだが、やる気がない以上、美菜がここにいる理由もない。
汗だくになる地獄の道のりが待っているが、美菜は帰路に着いた。


家に帰り着き、浴衣の準備をしている内に時間は過ぎていき、気付けば夕方となっていた。

美菜は汗だくになった体をシャワーで洗い流し、浴衣に袖を通した。




「お母さん!浴衣、袖通したのはいいけど、そこからどうしたらいいのか分からないよぉ」




袖を通したまではよかったが、着なれない上に滅多に着ることがない浴衣にどう対処したらいいのかが分からなかった。

美菜の言葉を受け、母親が顔を覗かせた。




「あら、なに?浴衣着ていくの?」

「そうなの。郁が絶対浴衣だって言うから…こうかな…」

「へぇ。それはまた楽しみねぇ。あ、ち、ちょ…違うわよ」




予想しながら動かした手を母親に止められ、帯を締め終えるまで美菜は動くことを許されなかった。




「ちょ…お母さん…帯きつくない?」

「少しきつく締めた方が着崩れしなくていいのよ」

「え、そうなの?」

「そうよ。人が多いんだから、緩くしてたらダラっとすぐに着崩れしちゃうの…って、美菜、あなたまさか髪型はそのままで行くってことはないわよね?」

「え?ダメなの?」

「………はい、こっちに来て」




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