透明がきらめく



 せっかく知らず知らずのうちに得た好感をさっきの一瞬でもぶち壊したのだ。

 ざまあみろ。おいと声をかけてくる久保田の声を全部無視して椅子に座りなおし、再びスコアの確認を始める。

 暫くして自分の呼びかけに答える気がないとわかった久保田は、少し離れている私にも聞こえるように舌打ちをしてからコートに戻っていった。

 腹立たしい。誰があんな奴好きになるもんか。その思いを活力に変えるようにお弁当もまともに食べずに働き回った。

 試合を見てないお前が悪いと言ったがさっきはハーフタイムだったし、スコアをつけている以上試合は誰よりもちゃんと見ているつもりだ。

 それを試合をちゃんと見ておけの一言で片付けるだなんて誰が許しても私が許してやるもんか。

 目を釣り上げて仕事をしていると、そのうちお腹の空きも感じなくなってきたし何より体が軽くなってきた。

 世に言うトランス状態の類だろう。今の私にはこれほど好都合なことはなかった。


「瀬名〜。仕事もいいけど時間見てメシ食えよ」
「大丈夫です。ありがとうございますシュウ先輩」
「――あのな、久保田に腹立てんのもわかるけど他校様も見てんだからな」
「……すみません。以後気をつけます」
「よろしい」


 ノンストップで働き詰める私に痺れを切らしたのか、シュウ先輩がわざわざ私に声をかけてくれた。

 久保田はともかくとしてシュウ先輩にまで心配をかけてしまったのは私の落ち度だと素直に謝れば、シュウ先輩は満足したように私のおでこを叩いてコートに戻っていった。

 時刻は2時を超えた。試合はあと残り2試合。

からぶっ通しでやっている為疲れが見え始めたせいか、敵もこちらもラフプレーが増えてきて怪我人が出ないか心配である。

 中央でのティップオフで試合が始まり、タイマーが動き出す。

 最初にボールを取ったのはうちのチームで、相手のゾーンに合わせてゆっくりと試合を進行している。

 外でボールを回しながら中が空くのを見計らうも、ゾーンなだけあって敵もそう簡単には通させてくれない。

 24秒計にちらりと目をやったシュウ先輩はスリーポイントラインから随分と離れたところからシュートを試みるも、リングに弾き返されリバウンドでボールは相手の手に渡る。

 みんなヘロヘロなことなんて御構い無しにオールコートマンツーだと叫ぶ監督には顔面蒼白しそうだが、みんな乳酸が溜まっていくのに耐えてひたすら動き回っている。

 相手も攻めあぐねているようだ。
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