・*不器用な2人*・
第22話/遠足
遠足の日の朝。

教室の黒板にバスの座席表が張り出されていた。

男女で隣同士に座るようになっているらしく、生徒たちは張り出しを見て騒いでいる。

配分は担任がクラスの人間関係を考慮して決めたようだけれど、めぐちゃんの隣りに軟派な男子が座ることになっている当たり、担任はあまりクラス内情勢を把握できていないようだった。

めぐちゃんは本人がすぐ後ろにいるというのに「最ッ悪。バスの中で1時間も一緒に座るんだったらもっとマシな人がよかった」と呟いた。

周りにいた女子たちが「まぁまぁ」と慌てたようにたしなめる。

私の隣りには淳君が座ることになっていた。

担任は「クラス内でアブれている者同士くっつけておけばあいいだろう」とでも考えたのだろうか。

ふと自分の席を見ると、私の前の席では淳君が机に突っ伏して寝ていた。

「木山淳、遠足は参加するんだ。」

めぐちゃんが小声で言うのがハッキリと聞こえた。




バスに乗り込むとすぐ、窓際を選んだ淳君は眠ってしまった。

――寝るなら窓際とらなくても……。

心の中でそう思いながらも、私は通路を挟んで向こう側に座っている女子から勧められてポッキーをもらう。

「淳君と隣りって羨ましいなー。
私なんてこいつだよこいつ。」

女子はポッキーで隣りに座る男子を指さす。

指された方の男子は苦笑しながら彼女の頭を軽く叩いた。

「いいなー、淳君って目立たないけど超格好いいよね。
ピュアな感じがするって結構一部には評判なんだよー。」

女子に言われ、私は熟睡している淳君の横顔を見る。

顔だけなら格好いいかもしれない、と少しだけ思った。

「ピュア、なのかな。」

私が苦笑混じりに言うと、彼女は「ピュアでしょ」と大きく頷いた。




バスが遊園地の駐車場に停車すると、前の方に座っていた派手な男子数人が後部へとやって来た。

「木山、俺らと一緒に回ろうぜ。」

淳君と同じくらい体格のいい男子が、私を押しのけて淳君の腕を掴む。

前後座席に座っていた生徒たちが慌てたように彼らを振り返える。

淳君は一瞬辺りを見渡したものの、ゆっくりと立ち上がった。

私は慌てて通路へと出る。

淳君は半ば引き摺られるようにして、男子たちに連れて行かれた。

バスにまだ残っていた生徒たちの表情が曇る。

「何あれ、大丈夫なの?」

前の方に座っていためぐちゃんが、低い声で呟いた。




野球部のメンバーと合流すると、マップを広げて園内へと入って行く。

「せっかくだし一発目はジェットコースターにしようよ!」

めぐちゃんがテンション高く指さした先には、大きな滑走路が構えられていた。

ノリのいい野球部員たちがめぐちゃんの腕を引っ張り、ゲートへと入って行く。

「俺らも行ってくる。」

浅井君が笑いながら木山君の腕を掴んで、彼らの後を追った。




「梶君は乗らないんだ。」

滑走路を上って行くジェットコースターを眺めながら、私は横に腰を下ろした彼に言う。

「俺、乗り物酔いするし。」

梶君は笑いながらそう言って、さりげなく私の手を握った。

私もそっと彼の手を握り、少しだけ笑う。

「後で、何か一緒に乗ろうよ。メリーゴーランドとかゴーカートとか。」

私が言うと、梶君は「小学生みたいだな」と呟いた。

こうしているとカップルみたいだな……と心の中で思いながら、私は梶君の横顔を盗み見る。

「手繋ぐの、恥ずかしくない?」

梶君は急降下するコースターを眺めながら言う。

私が反射的に手を離そうとすると、梶君は慌てたように私の手を掴み直した。

「改めて言われるとすごく恥ずかしい。」

私が笑いながら答えると、梶君もつられたように笑う。

「風野、よかったら2人で抜けない?」

アトラクションから聞こえてくる悲鳴に混じり、梶君の声が聞こえた。




梶君が屋台で買ってきてくれたジュースを片方差し出してくれる。

お礼を言って受け取り、私はストローに口をつけた。

「せっかくだし少し遊んで行こうか。」

彼に言われ、私は傍に立っていた園内マップを見る。

激しいアトラクションが苦手な私は、つい子ども向けのコーナーへと目が行きがちになる。

高校生2人がそんな乗り物に乗って騒ぐなんてシュール過ぎるとすぐに思い直し、ふと目に付いたのが「お化け屋敷」だった。

「梶君、これ入りたい。」

私が背後に立っていた大きな洋館を指さすと、梶君が一瞬目を見開くのが分かった。

無料パスを見せて、中へと入る。

カーテンの中には、ほとんど明かりがなかった。

壁には血を思わせるペンキが飛び散っていて、ところどころカラスの鳴き声が聞こえてくる。

「私、お化け屋敷はいるの初めてかも。」

そう言いながら、私は目を凝らしながら辺りを見渡した。




壁に立てかけてある棺桶が急に開いて中から人形が飛び出して来たり、天井から何か黒い物体が降ってきたり……。

その仕掛けに毎回驚かされながらも順路を進んでいた時だった。

「風野」

私のすぐ後ろを歩いていた梶君が、声をかけて来た。

私が立ち止まると、彼の手が私の手へと触れた。

ひんやりと冷たい手が、少しだけ汗ばんでいる。

その手を慌てて握り返した。

「梶君、大丈夫?」

私がそう言うと、返事はなかった。

代わりに繋ぐ手の力がさらに強まった。

私は梶君の手を引いて、早足に出口へと向かった。

途中、人が扮したゾンビから足を掴まれたものの、やんわり振り払うことができた。

大きな扉を開けると、急に視界が明るくなり、そこが出口になっていた。




梶君がその場に座り込む。

私は慌てて彼の正面に腰を下ろした。

「もしかして暗いところ苦手だった?」

そう訊ねると、梶君は髪を乱暴に掻き上げながら、小声で「うん」と言う。

出口から出てきた他の生徒たちが、「超怖かったー」と笑いながら私たちの横を通り過ぎて行く。

「お化け屋敷苦手って、ちょっと意外かも。」

私が言うと、梶君は一瞬ムッとしたものの、すぐに堅かった表情を崩して笑ってくれた。

「風野の方が意外性だから。」

そう言い返された。


「次、行こ。
梶君が乗り物選んで良いよ。」

立ち上がって梶君の手を引く。

彼は笑ったまま立ち上がると、私と並んで歩き始めた。



「あ、風野ちゃんがリア充してる――。」

同じクラスの女子たちから声を掛けられ、私は慌てて梶君と繋いでいた手を離す。

女子たちはケラケラと笑いながら私たちに手を振ると、追い越して行ってしまった。

「見られたな。」

梶君の言葉に、私も「見られたね。」と返す。

急に気恥ずかしくなって彼を見上げると、梶君も赤い顔で私を見下ろしていた。

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