・*不器用な2人*・
鳥居の近くまで行ったものの、辺りは相変わらず人でごちゃごちゃしていた。
ただ、鳥居の足尾mとがやけに空いているのが、人だかりの隙間から見えた。
あそこへ行って電話をかけようと思い、足もとへと近付いて行く。
「誰か呼んだ方がいいかしら」
「関わらない方がいいんじゃない?」
そんな声がチラホラと聞こえ、家族連れが早足に立ち去って行くのが見えた。
鳥居の足にもたれて座っている人影を目にし、私はハッとする。
クリスマスに見た時と同じように、フードを目深に被って顔を隠した細身の男子が、座り込んでいた。
「木山君?」
私が声をかけると、俯いていた彼はパッと顔を上げる。
終業式の時よりもさらに伸びた前髪が顔の半分を完全に隠してしまっていたけれど、人違いではなかった。
「どうしたの?遅いからみんな心配してたよ」
通行人の邪魔にならないように気を付けながら、私は木山君の横に座る。
彼は笑いながらも答えようとしない。
前に会った時よりも痩せているような気がした。
いつも通りに振る舞っているはずなのに、なんだか疲れたように見える。
「みんなは?」
小声で聞かれ、私は屋台の方角を指さす。
木山君は頷きながらもその場から動く気配はなかった。
「どうかしたの?」
私が訊ねると、木山君は膝を抱えて座り直しながら「別に」と呟く。
「ちょっと疲れただけ」
彼1人置いて戻るわけにもいかないので、私も動けないままだった。
「木山君、髪伸びたね」
私が声を掛けると、木山君がパッと顔を上げた。
隠れていない方の目が私を凝視していた。
「そう……だね」
以前のように前髪を耳にかけるようなことをせず、彼はまた小さな声で答えた。
やがて木山君はケータイで時刻を確認して腰を浮かせる。
「やっぱり気分じゃないから帰るね」
そう言って立ち上がった彼につられ、私も立ち上がった。
引き止めようと、最初は思わなかった。
ただ、階段へと向かって行く彼の後ろ姿が妙にフラフラと定まらないのを見て、不審に思った。
まるで酔っぱらっているかのように右へ左へと進路が揺らいでいる。
最初は足を怪我しているだけだと思った。
けれど、彼が手すりにぶつかったのを見て違うということに気付いた。
声をかけると木山君はすぐに振り返る。
「木山君、左目見せて」
私が言うと、彼は驚いたように右目だけで私を凝視した。
忘れかけていたけれど、彼の隠している左目は12月の25日、痣で囲まれていたはずだった。
木山君は困ったようにしばらく私を見ていたものの、前髪をそっと耳にかけた。
予想はしていたのに、いざ目にするとショックは大きい。
彼の左目はまるで魚の目のように色素が薄く、何処を見ているのか分からないほど濁っていた。
「それ、見えてるの?」
私の言葉に木山君は応えず、またすぐ髪を顔にかける。
「みんなには俺から言うから、黙っておいてね」
そう笑いかけられ、私は反射的に頷いてしまった。
木山君を見送ってから、私はしばらく鳥居の下でボーッとしていた。
先ほど見たものはすでに記憶から消えかかっていた。
信じられなかったし、信じたくもなかった。
同じ電車に乗ったあの日すでに、彼の左目はあんな風になってしまっていたのだろうか。
一緒にいた淳君はそのことを知っていたのだろうか。
ボーッとしていると、ぞろぞろと迎えに来た梶君たちに声をかけられた。
「木山は?」
梶君に聞かれて私はどう答えようか迷った後、「気が乗らないからって帰っちゃった」と答えた。
もう姿が見えない階段を指さすと、浅井君が頭をかかえる。
「本当にどうしようもないな、あいつ…」
その言葉にめぐちゃんも深く頷いた。
ただ、鳥居の足尾mとがやけに空いているのが、人だかりの隙間から見えた。
あそこへ行って電話をかけようと思い、足もとへと近付いて行く。
「誰か呼んだ方がいいかしら」
「関わらない方がいいんじゃない?」
そんな声がチラホラと聞こえ、家族連れが早足に立ち去って行くのが見えた。
鳥居の足にもたれて座っている人影を目にし、私はハッとする。
クリスマスに見た時と同じように、フードを目深に被って顔を隠した細身の男子が、座り込んでいた。
「木山君?」
私が声をかけると、俯いていた彼はパッと顔を上げる。
終業式の時よりもさらに伸びた前髪が顔の半分を完全に隠してしまっていたけれど、人違いではなかった。
「どうしたの?遅いからみんな心配してたよ」
通行人の邪魔にならないように気を付けながら、私は木山君の横に座る。
彼は笑いながらも答えようとしない。
前に会った時よりも痩せているような気がした。
いつも通りに振る舞っているはずなのに、なんだか疲れたように見える。
「みんなは?」
小声で聞かれ、私は屋台の方角を指さす。
木山君は頷きながらもその場から動く気配はなかった。
「どうかしたの?」
私が訊ねると、木山君は膝を抱えて座り直しながら「別に」と呟く。
「ちょっと疲れただけ」
彼1人置いて戻るわけにもいかないので、私も動けないままだった。
「木山君、髪伸びたね」
私が声を掛けると、木山君がパッと顔を上げた。
隠れていない方の目が私を凝視していた。
「そう……だね」
以前のように前髪を耳にかけるようなことをせず、彼はまた小さな声で答えた。
やがて木山君はケータイで時刻を確認して腰を浮かせる。
「やっぱり気分じゃないから帰るね」
そう言って立ち上がった彼につられ、私も立ち上がった。
引き止めようと、最初は思わなかった。
ただ、階段へと向かって行く彼の後ろ姿が妙にフラフラと定まらないのを見て、不審に思った。
まるで酔っぱらっているかのように右へ左へと進路が揺らいでいる。
最初は足を怪我しているだけだと思った。
けれど、彼が手すりにぶつかったのを見て違うということに気付いた。
声をかけると木山君はすぐに振り返る。
「木山君、左目見せて」
私が言うと、彼は驚いたように右目だけで私を凝視した。
忘れかけていたけれど、彼の隠している左目は12月の25日、痣で囲まれていたはずだった。
木山君は困ったようにしばらく私を見ていたものの、前髪をそっと耳にかけた。
予想はしていたのに、いざ目にするとショックは大きい。
彼の左目はまるで魚の目のように色素が薄く、何処を見ているのか分からないほど濁っていた。
「それ、見えてるの?」
私の言葉に木山君は応えず、またすぐ髪を顔にかける。
「みんなには俺から言うから、黙っておいてね」
そう笑いかけられ、私は反射的に頷いてしまった。
木山君を見送ってから、私はしばらく鳥居の下でボーッとしていた。
先ほど見たものはすでに記憶から消えかかっていた。
信じられなかったし、信じたくもなかった。
同じ電車に乗ったあの日すでに、彼の左目はあんな風になってしまっていたのだろうか。
一緒にいた淳君はそのことを知っていたのだろうか。
ボーッとしていると、ぞろぞろと迎えに来た梶君たちに声をかけられた。
「木山は?」
梶君に聞かれて私はどう答えようか迷った後、「気が乗らないからって帰っちゃった」と答えた。
もう姿が見えない階段を指さすと、浅井君が頭をかかえる。
「本当にどうしようもないな、あいつ…」
その言葉にめぐちゃんも深く頷いた。