・*不器用な2人*・
「折角授業が潰れてドッジボールができるっていうのに、AクラスとDクラスはサボリがいるのねー」

寒さに逃れて保健室へ行くと、保険医さんが笑いながら私を迎えてくれた。

ストーブの前には梶君と淳君が座っていて、めぐちゃんはソファの上で淳君が持って来たメンズファッション雑誌を興味深そうにめくっていた。

「だってー、Dクラスの男子と顔合わせたくないんだもんー」

めぐちゃんが膨れて言うと、すかさず梶君が「俺もDクラスなんですけど」と呟く。

「もうあいつらが考えてることがこれっぽっちも理解できないよー…」

めぐちゃんのぼやきに私も淳君も梶君も頷く。

確かにどう頑張ってもDクラス男子の考えていることは理解できない。

「でも、めぐも気を付けた方がいいよ。
お前だって一応女なんだから、男に掴みかかる癖直そうぜ。
相手が本気出してお前が怪我するなんてことがあったら問題だろ…」

梶君に諭すように言われためぐちゃんは「一応って何…」と言いながらも大人しくなった。

「せんせー、寒いから休ませて」

そんな声をあげて入って来た木山君は、私たちの顔を見てギョッとしたような表情を浮かべ、その場で硬直する。

淳君がウンザリしたような表情を浮かべながら「寒いから扉早く閉めろよ」と小声で言った。

木山君はしばらく視線を泳がせていたものの、結局は中へと入って来る。

彼は仏頂面のままポケットにつっこんであった紙切れを取り出して、めぐちゃんの鼻先へと突きつけた。

「え、何、これ…?」

めぐちゃんが戸惑ったように木山君と紙切れを交互に見る。

「早く受け取れって」

苛立ったように言われ、めぐちゃんは紙切れを受け取ると皺を呼ばして内容を確認し、ハッと顔を上げた。

「何で退部なんてするの!?私のことそんなに怒ってるわけ!?」

急にヒステリックな声をあげためぐちゃんに驚きながら、梶君が木山君を見上げる。

淳君は以前から知っていたのか、私たちから視線を逸らしながらもジッとしていた。


「別にめぐのことは関係ないけど。俺、もう部活に顔出すつもりないし」

私はつい梶君に目を向けてしまう。

何となく以前から、梶君の部員に対する寛容さが気になっていた。

特に木山君に対しては、何をされても一切怒ったような素振りを見せていない。

それは中学時代に自殺した生徒と彼が似ているせいではないのだろうかと、たまに考えてしまうことがあった。

「別に退部しなくても、籍だけ置いておいてまた気が向いたら戻って来るとかでも…」

梶君の言葉に木山君は「いいって」と明るい声で言った。

「家事はそう言ってくれるけど、他の奴らはそんな風に思ってないだろうし。
っていうか、何の役にも立たないような奴がいたって邪魔なだけだろ」

何の役にも立たない、そんな言葉に胸が締め付けられた。

いくらなんでも過小評価しすぎだ、と思った。




「そう言うわけだから、みんなにもちゃんと伝えといてよ、マネージャーさん」

木山君に笑いかけられためぐちゃんは、一瞬だけ怒ったような表情を浮かべたけれど、すぐに俯く。

「私、昨日言ったよね。木山君のそういうところが嫌いだって。
みんなに心配してもらえているのに、自分のことなんてどうでもいいみたいに振る舞ったりして、結局全部他人事で…」

めぐちゃんの言葉を木山君は遮る。

「だから、それはお前らのことなんてどうでもいいからなんだって」

めぐちゃんが肩を震わせ始めるのを見て、梶君が困ったような表情を浮かべ、木山君をもう1度見上げる。

「そういう言い方…」

ないだろう
、と続けようとする梶君に木山君が言う。

「本当のこと言っただけじゃん」

木山君はそれ以降何か続けようとして、言葉を切った。

彼は1度だけ私を見ると、保健室から出て行こうとする。

その背中に向かってめぐちゃんが声を掛けた。

「部活辞めるのって、足を怪我したから?」

木山君は扉の前で立ち止まって面倒そうに此方を振り返る。

「怪我してねーよ」

「じゃあなんで、そんな歩き方してるの?全然真っ直ぐ歩けてないじゃん」

めぐちゃんの言葉に木山君は返事をせず、音を立てて扉を閉めた。

ずっとことの成り行きを見守っていた保険医さんが大きく溜息をついてめぐちゃんを振り返る。

「頑張ったね、日野さん」

そう声を掛けられためぐちゃんは今度こそボロボロと泣き出し始めた。

慌てて梶君が駆け寄って彼女を慰めていたけれど、梶君自身も泣き出しそうだった。

ただ淳君だけが、バツの悪そうな表情のままジッとしていた。

< 55 / 114 >

この作品をシェア

pagetop