・*不器用な2人*・
森林公園ならではの散歩コースは、鳥のさえずりや木々のざわめきなど自然が嫌なほど味わえてしまった。

もっと暑くなったら虫も増えるのだろうと思いながら昨年の枯れ葉を踏んで行くと、ボートのある湖へと出た。

30分500円という高いのか安いのか分からない貸しボートは、誰も利用していない。

切符売りの叔父さんも退屈そうに小屋の中で新聞を読んでいた。

ボートから少しだけ視線を外すと、湖のほとりに木山君の姿が見えた。

「木山君」

声をかけると、柵に頬杖をついていた木山君は慌てたように顔を上げる。

「もう集合時間だっけ?」

「いや、まだなんだけど……」

そう言い掛けて私は言葉を切る。

木山君の右手の指の付け根がやけに変色していることが気になった。

「それって、吐きダコ?」
私が指さして言うと、木山君は自分の右手をまじまじと眺め「そうだね」と答えた。

「私、初めて見た……」

私が言うと、彼は少しだけ笑って手を差し出してくる。

「そう滅多に拝めるものじゃないもんね。
触ってみる?」

慌てて首を横に振ったけれど、幾つもできた虫さされか怪我か区別もつかないような赤い膨らみは、少しだけ物珍しかった。

「木山君、前まで一緒にお弁当食べてたのに。
どうしたの」

昨年度のことを思い出してふと訊ねてみると、木山君は少しだけ黙り込んだ。

何度も宙に視線を漂わせてから、彼は言いにくそうに口ごもる。

「弁当食べてから、トイレ行って、それから教室戻ってた。
でも意外にバレなかったよね。あの梶も気付いてなかったくらいだし」

「木山君は、全然教えてくれないからね」

1年一緒にいて、結局は気付けなかった。

笑っているからという理由で、教えてくれないという理由で、平気なのだと思ってしまっていた。

「木山君は、人のこと信用できない?」

私の言葉に木山君は再び顔を上げた。

「まぁ……さっきみたいなことがあって信用しろと言われてもねぇ」

彼はケラケラと笑ってから、欄干に靠れた。

「でも、風野さんたちのことは言うほど嫌いな訳じゃないよ」

「ムカつくって言ってたくせに?」

「言ったけど嫌いじゃないって」

「え、ちょっと意味分からない」

そんなやりとりをしながら、私たちは緑色に汚れた湖を見下ろす。

こんなところに荷物を落としたら絶対に拾い上げられないな、溺れたくないな、とボーッと考えてしまった。

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