・*不器用な2人*・
第62章/日常風景
教室へ入ると、珍しく朝早いめぐちゃんが駆け寄って来た。

「木山は?」
そう聞かれ、私は笑顔を引きつらせる。

「一緒に登校してきたのに下駄箱で靴を替えているうちに見失いました……」
「え、何やってるの綾瀬……」

めぐちゃんはその場で頭を抱えたものの、やがては私の肩をがっしりと抱いた。

「まぁ、一緒に登校して来れただけでも良かったじゃん!ね!」

そう言われ、私も大きく頷く。

母が木山君のルックスが好みだということや、父がまるで部下のように木山君の身だしなみに五月蠅かったことなどを話すと、めぐちゃんもお腹を抱えて笑っていた。

「綾瀬の家族楽しすぎだろ。
僕のとこも男系家系で騒がしいけどそれはないわ」

一しきり笑い終えた後、私たちは自分の席へと座った。

野球部の人たちは朝練があるらしい。

めぐちゃんだけは木山君のことを待つ為に此処に座っていたそうだ。

「なんか5月に他校と試合があるんだって。
やる気ないとか言ってる割に朝練はきっちりやるなんて、さすが梶だよね」

めぐちゃんの言葉に私は同意した。



HRで進路希望調査が行われた。

前の席に座った淳君は机に突っ伏しながら配布された用紙に落書きをしているし、めぐちゃんはめぐちゃんで折り紙をはじめてしまっている。

正方形じゃないから折りヅルはできないよ!!と心の中で声援を送りつつ、私は知っている大学名をいくつか書いた。

後ろから背中を突かれて振り返ると、梶君から「風野はどこ志望?」と聞かれた。

「N大とK大。あと上京するならR大が良いなって思ってるんだけど……」

私が言うと、梶君が「うわ、全然違う」と頭を抱えた。

彼の用紙を盗み見ると、メディアでよく見る東京の有名大学ばかりが書き連ねられていた。

1年生のうちから塾に通ったり受験のことを口にしていたりしていたから、それなりの大学へ行くのだろうとは思っていたもののまさか国立志望だとは思わなかった。

「大学は離れちゃうか……」

少しだけ寂しそうにそう言って、梶君は用紙を机の上に伏せた。



休み時間、梶君のところへはたびたび後輩がやって来た。

梶君は誰にでも愛想よく対応していて、1年生からも人気が高いらしい。

ノリのいい浅井君や穏やかな井上君にも割と来客があったものの、とっつきにくいめぐちゃんにはみんな声をかけ辛いらしい。

「日野は運動神経も見た目も良いのに性格がツンケンしているから勿体ない」

日直の仕事で教材運びをしている際に梶君がそうぼやいていた。

「野球部ってめぐちゃんが言ってる程アットホームな部活なの?」

私が訊ねると、梶君は「えー…」と眉間に皺をよせて考え込んだ。

「去年はそうでもなかったよ。
木が抜けてる1年はバツ掃除とかバツメニューとかがあって容赦なくしばかれてたし。
今年の2年がおっとりし過ぎてるだけだと思う」

梶君は自分がその筆頭を行っていることを知らないのか不思議そうに説明してくれた。

「去年は負けたら泣いたりもしたし、練習し過ぎて倒れる先輩もいたよ。
俺らには全然関係なかったんだけどね」

教材を職員室に届け、梶君は大きく伸びをする。

「2年になれば先輩たちみたいにしっかりするかと思ったらそうでもないね。
いざ自分が2年になったら全然だ。
やっぱ届かないよな」

梶君はそう呟くと、早足に歩き始めた。
私も慌ててその後を追う。

「梶君たちは梶君たちらしくやればいいと思う」

そう言いながら梶君の手を握る。

人前では恥ずかしいからという理由でなかなか恋人っぽいことをしていなかった。

梶君は案の定周りを見渡してから私の手を握り返し、照れたように笑う。

「俺たちらしくかぁ……」

そんな話をしながら教室へ向かっていた時だった。

急にヒステリックな怒鳴り声が聞こえてきた。

「だから、息子がまだ家に帰って来ていないんです!!」

聞き覚えのある声と、何となく思い当たる言葉。

私と梶君は揃って足を止めた。

校舎の入り口のところで、担任と木山君のお母さんが対峙していた。

「ですから、息子っていうのは薫君の方ですか?淳君の方ですか?」

「どちらでもありません!それは親戚の子たちで、私の息子は龍一っていうんです!」

話が噛み合わないことに参ったように、担任は頭を掻いていた。

「とりあえず2人とも呼んでくるんで応接室で待っててください」

そう言い残して担任は逃げるように階段を上って行く。

「あれ、木山の母ちゃん?」

梶君にそっと聞かれ、私は無言で頷いた。

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