今日も、明日も、明後日も
突然の恋人



「俺と結婚してください」





東京は、灯りが煌めく夜のオフィス街。

会社前にある大きな交差点は、今日も帰路につくサラリーマンやOLが行き交い、にぎやかさとどこか無機質な雰囲気が漂っている。

そんな場所で、目の前の彼は私の両肩を掴み言い切った。



はっきりとした迷いのない一言に、聞こえていたらしい周囲の人々は「わぁ」とひやかすように笑う。なんて男らしくて素敵なプロポーズ。普通ならそう思うだろう。

この人が、見ず知らずの人じゃなければ。





「……は?」



意味がわからず首を傾げる私に、その人……少し年上っぽくも見えるスーツ姿の男性は、ニコニコとした笑顔で私の肩を掴んだまま。



「えーと……あの、どちら様ですか」

「あれ?俺のこと知らない?あ、そっかそうだよね。初めまして!俺は……まぁいいや。取り敢えず結婚しませんか!」

「いや、何が取り敢えずなのか意味がわかりません。そして無理です」

「まぁまぁ、そんなこと言わないでさ。ここじゃなんだし、どこかで話でも……」

「人違いじゃないですか。ではさようなら」



話は読めないし、諦める気配もない。きっとこの人は危ない人だ、関わってはいけない。瞬時にそう判断した私は、その人にそうばっさりと言い切ると肩を掴む手を払い、スタスタと早足でその場を後にした。


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