今日も、明日も、明後日も
一体何が、起きたのだろう。
春近付く、3月頭の夜。私、梶原鈴・22歳は残業後でただでさえ疲れている頭をぐるぐると働かせながら、勤務先である会社の最寄りの駅の中を歩く。
頭がついていかないのも、そのはず。小さな食品メーカーの事務OLで、モットーは『地味に堅実に』。昔から愛想が悪いというか、表情豊かなほうではなく、人間関係は狭く浅い。元気ハツラツ、という言葉ほど自分に縁遠い言葉はないと思う。
そんな私が、見ず知らずの人にプロポーズされたのだから。
なぜプロポーズ……そしてあれは誰。本当に人違い?……いや、でも普通間違えないでしょ。さすがにおっちょこちょいすぎでしょ。
ああもう、意味がわからない。
足元の、少しくたびれた黒いパンプスの低いヒールをカツカツと鳴らしながら歩く。ホームへと出ればすでに到着していた電車に、私はそそくさと乗り込む。
……忘れよう。なかったことにしよう。うん。
どう考えても答えは出てこない。ならばいっそ、もう考えることをやめよう。そう辿り着いた結論に従い、無理矢理自分の記憶を無かったことにねじ曲げ、電車に揺られて5駅。最寄り駅で降り自宅へ向かった。