今日も、明日も、明後日も



「私のこと……?」

「だってさ、いつもいつも千鶴子さん鈴ちゃんの話ばっかりするんだもん。昨日こんなことがあった、こんな話をしたって。だから、鈴ちゃんがどんな子か把握してたし初めて会った時も初対面な気がしなかった」



私の話を聞いたのは、一度だけじゃなかった。彼は、私のことを知っていた。

それが、一つ目の嘘。



「二つ目は、あの日千鶴子さんが亡くなったことを知った日のこと。実はあの話には続きがあって」

「続き……?」

「近所の人たちの話を聞いたあと、俺、つい気になって植え込みから鈴ちゃんの家を覗き込んだんだ」



彼の目に映った私は、きっと


「そこから見えた縁側には、ぼーっと空を見上げてる女の子がいて。その子は泣きそうな、でも我慢するような、痛々しい顔をしてた」



泣いちゃいけない、強くなきゃいけない。

そう決めて、涙をこらえていた。



「賢い子で、我慢するのが得意な子だって聞いてたから……君は誰かに縋ったりしないんだろうと思った」



伊織さんの静かな声に、風が二人の間を吹き抜ける。



「君は一人で泣くんだろうか、あの広い家で思い出と悲しみに押し潰されながら生きていくんだろうかって、そう思ったら何でか俺が泣いてた」



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