バーテンダー
「そうそう。シャンパンと言えば、聞いて、聞いて。そこのホテルで飛び降り自殺があったらしいわよ」
「飛び降り?」
「うん。ちょうど一時間前だって。若い女性だったみたい。なんでもシャンパンを身体に浴びて、飛び降りたらしいわ。今、その場所通って来たんだけど、辺り一面にドンペリの匂いが充満してたわ」
「シャンパンを……?」
「そっか。わたしがその場所を歩いて来たから、今、ドンペリの匂いがするのね。匂い、身体についちゃったかな?」
そう言って、腕を鼻に当て自分の身体を嗅ぎ始めた。
飛び降り……自殺。
一時間前?
「タモツさん、打ち水でもした? ドアの前に水がたまってる。ここ一週間雨は降ってないもんね」
マホが水たまりを避けながらバ―の中へと入って行った。
『あと一時間早く、お兄さんに会いたかった……』
女の声がリフレインした。
シャンパンを浴びて飛び降り自殺した女性……
夜空を見上げて
「僕も早く出会いたかったです」
そう呟いて目を閉じ、胸の前で手を合わせた。
寂れたネオン街を風が吹き抜け、辺り一面に充満していたシャンパンの香りを根こそぎ、さらって行った。
Fin
