闇夜に真紅の薔薇の咲く
目を見開いたまま、朔夜は押し黙る。

焦っていた朔夜は肩で息をしながら、ちらりと背後を一瞥した。

彼らが何をしにここへやってきたのか。問いかけようとして、朔夜は口を噤む。

愚問だ。彼らは自分をさらうためにやってきた。

いや、正しく言えば自分の中に眠る闇の姫を。

地面を凝視したまま微動だにしない朔夜を見つめ、何かを発しようと口を開きかけた時、後ろから猛スピードで何かが駆けてくる気配に朔夜とルイは同時に振り返る。

“何か”を視界に入れた瞬間、二人は同時に目を見開き――朔夜にいたっては口元を押さえて短い悲鳴をあげた。


「――っ!!」

「っ朔夜ちゃん! 走って!!」


ルイの声に重なるように、銃声が鳴り響く。

それがいつの間にやら彼が握っていた銃の音だと気付いた時、朔夜は強引に腕を掴まれて再び走りだした。

誰が自分の腕を掴んでいるのだろう。あり得ないことの連続についていけなくなった頭でぼんやりと考える。

ゆるりと、緩慢な動作で視線をあげるとそこには金の髪がうつり「あぁ」と彼女は声を零した。

良かった。ルイだ。

安堵の息を零した瞬間、妙な違和感を覚えて彼女はもう一度顔をあげる。

ルイに似た後姿。けれどどこか妙で、朔夜は小首をかしげた。

何かがおかしい。それは、何だろう。

金髪で、背丈だってほとんど似て――……。

(あ、違う……)

背丈が違う。そして何より、髪の長さが。

目の前で揺れる少し長めの金髪は黒いリボンで結ばれ、明らかに他人であることを物語っている。

恐怖で背筋が凍った。

誰だ。これは。自分の味方なのか。はたまた、敵なのか。



「……誰?」


かすれた声に、発した彼女自身も驚いた。

あたりの喧騒にまぎれそうなか細い声に耳ざとく気づいた彼は、こちらに振り向き冷たい微笑を浮かべる。


「お久しぶりです。――いや、初めましてと言うべきか。お会いできて光栄です。我が姫君?」

「……っ」


どくん、と鼓動が跳ねた。

どこか冷たく、それでいて絵になる微笑。

青や白と言った花が似合いそうなその彼を、自分は知っている。






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