闇夜に真紅の薔薇の咲く
Xx.+.


「朔夜ちゃん!!」


発した声は、彼女には届かない。

驚きの連続に、恐らく彼女の頭が正しく反応できていないのだろう。

彼女を追おうと、ルイは足を踏み出すが先には行かせまいと、どこから湧いて出てくるのか黒づくめの奴らが邪魔をする。

彼はそれに片っ端から銃弾を撃ち込みながら、鬱陶しげに舌打ちした。

(後から後からうじゃうじゃと……っ!)

どんどん遠ざかって行く守るべき少女に焦りを抱きながら、ルイは苛立たしげに群がる黒づくめの者たちをしとめる。

人数は多いが、彼らはそれほどに強くはない。

自分やノアールにかかれば一発で仕留めることができる者たちだが、こうも湧いて出てこられるとやはり厄介だ。

特別棟には不似合いな、銃声と生々しい悲鳴が木霊する。

銃弾を撃ち込んだ瞬間に霧散する彼らを冷やかに見つめ、ルイは口端に笑みを浮かべた。

普段の彼ならば絶対に見せない、冷たい笑みを。



「お前ら、邪魔なんだけど」


早く、彼女を助けなければならないのに。

あの男の手に渡してはいけない。

アイツに渡してしまえば主が――ノアールが悲しむ。

数メートル離れた場所で応戦する主が目にもとまらぬ速さで黒づくめの者たちを殺していく。

恐らく、彼は見てしまったのだろう。

大事な存在が敵の手に渡る瞬間を。


「朔夜っ」


血を吐くような、悲痛な声がルイの元に届く。

滅多に表情を見せない彼にしては珍しく、その顔を悲痛に歪め何度も何度も切羽詰まったように彼女の名を呼ぶ。

その光景から視線をそらし、ルイは迫りくる相手に銃弾を撃ち込んだ。

――彼は何度、あの名を口にしたのだろう。

今でこそ名は変わってしまったが、恐らく彼は気が遠くなるような長い時の中でずっと“彼女”の名を口にしてきたはずだ。





< 127 / 138 >

この作品をシェア

pagetop