闇夜に真紅の薔薇の咲く
昨日、確かに自分を殺しかけたではないか。






思いだしただけで恐怖が身体を駆け巡り、そっと瞳を閉じる。






ともすれば震えそうになる身体を拳を力の限り握り締めて震えを抑えた。






そんな朔夜を見て、ノアールはばつが悪そうに顔をそむけ視線だけをこちらに向ける。







「……もう、お前を殺さないと決めた」

「……え?」

「考えれば、“闇の姫”が覚醒したところで魔界は何も起こらない。――彼女が、あの時の彼女のままであったなら……」







最後にぽつりとつぶやかれた言葉は、下校時の生徒の声でかき消されて朔夜の耳に届かずかき消える。







聞き返そうかとも思ったが、彼のどこか寂しげな表情を見てやめた。







きっと彼だって訊いて欲しくなどないだろう。






そう自分の中で結論付けて、彼女は違う質問を投げかける。






昨夜から、ずっと疑問に思っていたことだ。








「“闇の姫”って何ですか?」







小首をかしげてノアールを見つめる。






彼の瞳はいつもの淡々としたものに戻っていて、彼女に問いかけられると僅かに瞳を伏せた。





視線は地面を見つめたまま、彼が口を開いたその時――。







「ちょっと、朔夜ー? 黒崎くーん? 何してるの? 早く早く!」






麗の声がそれを遮った。






ノアールは開きかけた口を閉じると、「行くぞ」と短い言葉を残して先を歩いていく。






少しずつ離れて行く背中をその場を動くことなくじっと見つめた。






そして一度静かに瞳を閉じると、息を吐きだす。






彼は何を言いかけたのだろうか。






その内容はとても気になったけれど、先ほど同様彼に訊くのはやめておこう。






僅かに伏せられた瞼から僅かに覗いた寂しげにゆれる瞳を思いだし、朔夜は握りしめていた手をほどく。






笑顔で手招きする麗の元に作り物の笑顔を浮かべて歩みを進めるノアールの背中を追うように、彼女もまた瞳を輝かせる友人の元まで歩みを進めた。









< 47 / 138 >

この作品をシェア

pagetop