夢現
異国
燃え上がる炎は覚えている。
色々な音が聞こえたはずなのに、私の記憶は映像のみで音がない。
それが嘘の記憶か、本当の記憶か分からない。
そして、真っ暗になる。
視界も、音も。
真っ暗…違う。
闇になった。

ぼやける視界。
光が目に痛い気がする。
風?
何かが通りすぎた。
急に『わー』と人の声が周りからわく。
驚いて見回すと、見覚えのない人たちが泣いて、笑っている。
1人の女性が私を抱きしめる。
『良かった』
何度も繰り返し言う。
何が何だか分からない。
時間が経つと、色々な事を学んだ。
あの女性は私の母親で、私は飛行機事故に遭い、長い時間昏睡状態だったらしい。
学んだけれど、どの話もしっくりこない。
私の街と教えられたこの街すら、異国にしか見えない。
瞼を閉じると、建物なんてほとんどない林が見える。
風が吹く。
こちらの方が懐かしい。
事故のショックで一時的に記憶が混乱しているだけだと言われた。
でも何を見ても違和感がある。
自分の顔すら包帯で巻かれていて、見る事もできない。

『焦らなくていいのよ』
母親は繰り返し私に言った。
初めは否定した。
『ここは私の居場所じゃない』
でも、傷は痛むし眠れば炎の夢を見る。
私は少しずつ甘えるようになった。
母親はそんな私を喜んだ。
『それでいいの』
繰り返し言った。

母親だけじゃない。
周りの人たちも優しかった。
みんな私が顔も名前も分からない事にショックを受けた顔をしたけれど『少しずつでいいよ』と言ってくれた。
私との思い出という場所にも連れて行ってくれた。
どこも懐かしさはなかったけれど、優しさが嬉しかった。
色々な傷が癒えてきた時、私は知る。

やっと包帯を取れる事になった日。
母親が口を抑えた。
信じられないくらい醜いものでも見たように、顔から血の気が引いていった。
事故の後遺症で、よっぽど酷い顔になったと悟った。
私は覚悟を決め、鏡を受け取った。

『…?』
あれだけ包帯でぐるぐる巻きにされていた割には、それほど酷い顔ではなかった。
母親の反応が不思議で振り返った。
母親から出た言葉。
振り絞るような言葉。
『あなた、誰?』

懐かしさを感じるわけがない。
別人と間違えられていたのだから。
本物は誰にも看取られずに亡くなったと言う。
それから私は色々な人から罵られた。

『それが、今私がここにいる理由』
彼女は最後に笑って言った。
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